こんなに笑える自分にびっくり!—留学生は「落語」に夢中

左:楽しそうに笑っている留学生。右:「初天神」の始まり始まり。

今年も落語家・桂扇生さんによる恒例の「冬の落語鑑賞会」を実施しました。今年の演題は「初天神」と「ぜんざい公社」です。「初天神」は以前にも何回か やりましたが、留学生にはとても人気がある落語です。わがままな子供を連れて天神様にお参りに行く親子の話ですが、落語家が親になったり、子供になった り、また通りがかりの人々になったりと、一人で何役もやるのに留学生はびっくり! 表情豊かな演技、語り口に「すごい!」と感動していました。

「ぜんざい公社」は、たったいっぱいのお汁粉を食べるのに、「ぜんざい公社」ではたくさんの書類に記入しなければならず、書類を持ってハンコをもらいにアチコチの窓口に行ったり来たり……。やっとぜんざいが食べられると思ったら、何と砂糖抜きのぜんざいだったのです。

オチは「甘い汁はこちらで吸ったものですから……」。教師が事前の授業で、落語のオチとは気づかれないように「慣用句プリント」の中でさりげなく学んで いた留学生たちは、大きな声でげらげら笑っていました。一方、そういう配慮が全くなかったクラスでは、さすがに「甘い汁を吸う」という言葉を知らず、「何 でここで笑うの? どういうオチ?」と怪訝そうな顔で、笑い転げている他のクラスの学生たちを眺めていました。この体験は、「笑えなかった自分の語彙力の なさ」を痛感し、「もっと日本語、勉強しようっと!」という気持ちが高まっていったようです。

今年は演題も分かりやすかったからでしょうか、留学生たちはいつも以上に盛り上がっていました。そんな彼らをつかまえて、いろいろ感想を聞いてみたところ、たくさんの意見が出てきました。

■日本語学習の動機づけ
○「ぜんざい公社」で「甘い汁を吸う」という言葉がわからなくて、最後笑えませんでした。帰りに先生に聞いて、「あ、そうなんだ!」と急におかしくなりま した。やっぱり日本語で楽しむには、もっともっと言葉をたくさん知っていることが大切です。だから、もっと勉強したいと思います。

○こんなに笑える自分に驚きました。1年前だったら、たぶん何の話か全然分からなかったはずです。そして、いろんな説明を聞きながら見るから、ずっとわかりやすくて、日本の伝統的なコメディーを楽しめました。

○「初天神」の落語で、「たこ(凧)」と聞いてずっと「たこ焼き」と思ったけど、その後の話を聞いて、たこは食べ物ではないとわかってきました。やっぱりもっとたくさん言葉を知りたいと思いました。

■人を笑わせるという仕事
○みんなの前で1人でずっとしゃべるのは、ドキドキするし、本当に大変なことだと思います。でも、1人で座って演技もしながら、人を笑わせるのはすばらしかったです。

○身の回りの日常のことで、あんなに面白い話が出来るというのは、すごい努力があったのだろうと思います。すごい!!

手ぬぐいと扇子で手紙を書く扇生さん。

■手ぬぐいと扇子だけで表現
○手ぬぐいと扇子をたくみに使って、何にでもなれます。これはとてもおもしろいところです。落語家は、生き生きした表情と動作を組み合わせて話すので印 象深かったです。私たちも人と話す時、表情とか動作とか考えると、もっと良いつきあいができるかもしれません。それも勉強になりました。

■一人で何役も演じる力
○「初天神」は本当に面白かったです。わがままな子どもになったり、お父さんになったり、いろんな役を1人で演じるのがすごいと思いました。

○落語家が何か食べる動作をするとき、本当に食べているようでした。だから、見ている私もおなかがぺこぺこになってしまいました。それぐらい上手でした。

■着物への興味
○着物の話がとても勉強になりました。今はほとんど日本人は着ていない理由とかもわかりました。値段がすごく高いこと、洗濯が大変なこと、それから、洗い張りというのがあることも聞きました。でも、やっぱり伝統的な衣装は大事にしたほうがいいと思います。

○着物の左前のことが、とても印象に残っています。着物を左を前にして着るのは、死んだ人なので、とても良くないことだと聞きました。だから、電車の中で 左前に着ている人がいたら、手を合わせて拝んでくださいと落語家が言ったので、おかしかったです。やってみたいですが、きっと日本人は怒るでしょう。日本 人はあまりユーモアを話しませんから。それから、「会社が左前になる」という言葉も覚えました。

■自分の国との比較
○やっぱり日本人と外国人では笑いのツボは完全に違うと思いました。特に国の習慣とか常識が分からないと、笑えないと思います。でも、落語は、表情とかしぐさが豊かで、すごく分かりやすかったです。

○中国にある「単口相声」と似ています。中国には「相声」というのがあって、「対口相声」は漫才、「単口相声」は落語に似ています。日本の落語をもっともっと知りたいです。

○韓国にも昔から落語みたいな話をする人がいます。でも、目的は人を笑わせるよりいろいろな所に行ってみた人が、自分の経験を話すことです。それは日本の落語とは違いますが、どこかにているところもあります。

■その他
○話のスピードといい、落語のネタといい、自分もだんだん落語の世界に浸み込んでいくのがわかりました。

○物語の中で何も書いていない手ぬぐいを開いて、読み始めたのはすごいと思いました。それは弟がお兄さんに手紙を書く話ですが、すごくおもしろかったで す。猫の名前が「ネコ」になる話とか、「あっ、何か鳩が落とした」「ふ〜ん(糞)」っていう小ばなしも大好きです。落語は「おじさんギャグ」で、おじさん たちとかお年寄りの人たちに呼びかけたりして、そういう人たちを笑わせるような「大昔のお笑い」の一つの種類だと思っていましたが、実際は違いました。分 かりやすいし、とても面白かったです。やっぱり伝統的なものはいいところがいっぱいあると思いました。

○面白くない普通の話もおもしろくしなければなりません。だから、よく考えてみると、こういう仕事をして食べていくのは、ストレスがたまるのではないで しょうか。だから、ある意味、この人たちは、天才にちがいないと思います。そして、私達は、落語を聞いて悩みや疲れを癒すことができるのが、とてもいいで す。この人たちがいてくれたからこそ、きびしい社会が少しゆるくなってきたと感じられます。

○「ぜんざい公社」はとてもおもしろかったです。平社員がぜんざいを食べるまでのたいへんな過程、やっと食べたのに、「甘い汁を吸ったのはこちらです」と言われて、砂糖が入っていなかった。オチもおもしろいと思いました。

○「ぜんざい公社」という落語は本当に面白かったです。それは、最近私も進学するためにいろいろな活動をしているんですけど、やっぱり役所というのはうん ざりする、疲れる、そういうところだと感じていました。だから、すごく笑えました。ぜんざい一杯食べるのにもいろんな書類を作ったり、はんこを押したり、 行ったり来たり……。役所はどこの国でも同じですね。

○私は高中時代(高校時代)には演劇学科を卒業したので、お芝居屋さんの難しさがよく分かっています。特に舞台で1人で大勢の観客に向かうのは、勇気がなければできません。それにネタを忘れずに完璧に演出できるのはもっとすごいと思います。役者の腕はここで見破れます。

○最初落語を鑑賞すると聞いたときは、ちょっとがっかりでした。たぶんおもしろくないと思いました。でも、それは私の間違いでした。2時間という長い時 間、私はずっと笑っていました。その長さに気づかず、あっという間に落語は終わっていました。すごくいい経験でした。日本のいい思い出になりました。

いつか留学生の中から、文化祭に落語を演じる人が出てきたり、「留学生小噺集」ができることを願っています。韓国から来たAさんは、「先生、わたし、落 語に一目ぼれです!」と話してくれました。さてさて来年の演題は何にしましょうか。留学生の姿を目に浮かべながら、アレコレ考えるのは私にとってとても楽 しいひと時なのです。

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