17文字に託す留学生たちの想い遥か

 今年も、8月から9月にかけて、各クラスで俳句作りに励みました。クラス単位で句会をやったり、また合同句会を催したり、とそれぞれ思い思いのやり方で俳句作りを楽しみました。

 そのあと、例年通り各クラスから代表句が出て、「校内俳句コンテスト」が行われました。選句者は、学校の先生方、ボランティアサークル「風の会」のメンバー、ご近所の方々です。そして、選ばれた今年の入賞作品。どれも味のある、留学生ならではの作品です。なんと今年2席に選ばれたのは、日本に来てまだ2ヵ月という初級クラスのマルガリタさんでした。

1席になったパクさん(撮影すべて筆者)

■1席 夜の空 刺繍ほどこす 夏花火 
 (朴昭映 韓国女性) 
 
 朴さんは、釜山出身。故郷でも毎年9月頃に大きな花火大会があります。彼女はその時のことを思い出し、「ああ、自分は今、日本に居るんだ」という思いで、この句を作りました。花火から刺繍を連想したのですが、それを日本語でどう表現したらいいのか分かりませんでした。そこで、電子辞書であれこれ調べて、「ほどこす」という言葉に辿りつきました。「詩を作るなんて小学校以来です」という朴さん。世界一短い詩である「俳句作り」の面白さを熱く語ってくれました。釜山に帰っても、ぜひ俳句を作ってほしいものです。

2席になったマルガリタさん


■2席  おどらせる おとがよんでる なつまつり(マルガリタ ウクライナ女性)
 
 マルガリタさんは、7月に日本に来たばかりの初級クラスの留学生です。彼女は友達と一緒に学校の近くの夏祭りに行きました。そこで見た盆踊り、浴衣姿の女性達、そして周囲に響き渡る太鼓の音。「わたし、うれしかった。日本のダンス、おもしろいです。わたしもしたいです」というマルガリタさんは、今週のお祭りに今度は見るだけではなく、参加するそうです。日本語の勉強を始めてまだ2ヵ月にしかならないマルガリタさん。知っている日本語を使って気持ちをうまく表現してくれました。
 「初級では俳句なんて無理。ホントに少しの日本語しか知らないのだから」という周囲の人々の「思い込み」を吹き飛ばしてくれるみごとな俳句でした。

■3席  夏の夜 大輪の花 空に舞う (劉恩誠 韓国女性)
      
 この句では、花火と言う言葉を使わずに、「大輪の花」という言葉で花火の美しさを表現しようとしたユさん(劉さん)の思いがよく表れています。この感性を大切にして、日本留学中にもっともっと俳句を楽しんでほしいと思いました。

 他にもこんな俳句がありました。作った留学生の声とともにお届けしたいと思います。

◆白いちょう 赤いゆかたに すわったね(アンナ ロシア女性)

 アンナさんはこの間、白い蝶々の模様がついた赤い浴衣を着て、花火を見に行きました。彼女にとって白い蝶々は「愛情のシンボル」。次の願いは、赤い浴衣に飛んでいる白い蝶々と一緒に、盆踊りを踊ることだそうです。「言葉が小さい(少ない)けど、感じをたくさん伝えるから好きです」と俳句について語ってくれました。

◆舞い揺れる 風の吹いてた ラベンダー(陳リーチェ 台湾女性)

 旅行が好きな陳さんは、夏休みに大学時代の友だちと一緒に北海道に行きました。富良野のラベンダーを見て、彼女は息を飲みました。「すごい! この景色は台湾(嘉義)にはない」と思った陳さんは、ラベンダーという言葉を使って、俳句を作ってみたくなりました。

俳句を楽しむ初級クラスの留学生達


◆帰り道 猫はどこだろ 蝉時雨(サビック ウクライナ男性)

 サビックさんは、いつも学校の帰りに隣りの庭の猫に「こんにちは」とあいさつをするそうです。でも、ある日いくら庭をのぞき込んでも、猫の姿が見つかりません。「どうしたんだろう? きっと暑いからどこかに隠れてるんだろう。蝉もこんなに鳴いている」。そう思いながら、ちょっぴり寂しい気持ちで家の玄関の戸を開けました。

◆ヒグラシの 声に目覚める 夏の朝(呉美庚 韓国女性)

 呉さんはヒグラシの鳴き声を聞き、韓国での夏を懐かしく思い出しました。「ああ、もう日本に来て1年経ったんだなあ。おじさんが住んでいる南原(ナモン)で聞いたヒグラシが懐かしい」という思いでいっぱいになったのだと語ってくれました。

◆汀波(なぎさなみ)来て消え失せる 苦と同じ(シャックラパン タイ男性)

 タイの海岸で波が寄せては引いていくのを見て、シャックラパンさんはこんな思いを抱いたことがあると語り始めました。「人は『苦しみ』を長いと感じることが多いけど、この波と同じ。いつまでもずっとは続かない。これから大変なことがあっても、この波のことを思い出そう。悩んでいる友だちがいたら、この波を見て思ったことを話してあげよう」と・・・・・・。その時のことを思い出しながら、この俳句を作りました。

◆五月雨も母の叱責止められず(呉培寧 台湾女性)

 台湾で梅雨に当たる時期は2ヵ月ぐらいですが、その間は天気と同じようにうっとうしい気持ちになる人が多くなります。呉さんのお母さんもその一人で、いつもなら優しく言ってくれることでも、ついいらいらして呉さんを叱ってしまうことがあるそうです。そんな梅雨のある日、急に雨が強く降り出し、みんなその雨に気を取られたのですが、お母さんは全く気づかず・・・・・・。その時の様子を俳句にしてみたかったのだと、呉さんは語ってくれました。

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