「地元のお店取材」で地域社会の魅力を肌で感じた留学生たち

地域密着・生活共感情報&マガジン『おこのみっくす』の取材活動としてイーストウエスト日本語学校で学ぶ6名の留学生たちが地域にあるお店を訪ねて回りました。今回のマガジンのテーマは「昭和の窓から今の中野をのぞいてみれば、ちょっと昔の普通の暮らしが見えてくる」というものでした。これは、留学生たちに日本社会のさまざまな姿を見たり、いろいろな日本人と触れ合ったりしてほしいと思っている私には、願ってもないチャンス。ワクワクしながら迎えた「取材の日」でした。

取材に出発する留学生たち(撮影・嶋田和子、以下同じ)

最初に訪れたのは「お豆腐屋さん(神宮豆腐総本店)」、取材は崔(チェ)ハナさんが担当です。
韓国には豆腐屋さんがなく、豆腐やおからはスーパーでしか売っていないため、崔さんは日本のお豆腐屋さんが珍しくてたまりません。いよいよ取材開始です。「韓国ではおからをチゲ鍋に入れて食べたりするのですが、日本ではどんなおから料理があるんですか」というチェさんの質問にお店の方はいろいろ答えてくださいました。取材班は、大豆によって浸す水の量や時間を調整するという話や、1日に10個しかできない「特選豆腐」の説明に聞き入っていました。卯の花を試食したチェさんは、「うん、おいしい! 何でも機械化してしまったように思っていたけれど、こんな『手作りの味』が残っているんですね」と日本のお豆腐屋さんの味を堪能していました。

次のお店は、「伝統の美術刀剣のお店(勝武堂)」、取材したのはタイ出身のジョックさんです。
以前「タイ式剣道」を習った経験があるジョックさんは刀剣のお店に行けるのが嬉しくてたまりません。わくわくしながら暖簾をくぐってお店に入ると、たくさんの刀剣が目に飛び込んできました。もう80年以上も続いているお店にはすてきなモノがいっぱいです。店主の大平さんが刀を鞘からを抜いて見せてくださると、ジョックさんは「わあ、すごい! 私、日本刀、大好きです」と歓声をあげました。「日本刀って、最高の日本の美術品なんです。人間が一人ひとり違うように、刀も一つひとつに個性があるんですよ」という話を聞いて、一緒に取材をしたアメリカ出身のジェクリンさんは、びっくり。授業で勉強した「江戸時代」のことをいろいろ思い出していました。

3番目に訪れたのは「和楽器のお店(河合琴三弦店)」です。取材するのはロシアから来たアンナさん。
学内で「お琴教室」を実施することもありますが、お琴を奏でるという体験はできません。アンナさんはお琴の前で神妙に正座をし、河合さんのお嬢さんの手ほどきで「さくらさくら」に挑戦してみました。「私、琴に興味があるんです」という言葉で担当が決まっただけに、アンナさんの顔は輝いています。着物姿の河合さんが奏でた「ジングルベル」に「どうしてこんなヨーロッパの曲を琴でできるんだろう」ととても不思議に思ったと、アンナさんは話してくれました。

その次は、「気さくな畳屋さん(猿渡畳店)」です。みんな畳を作るお店を見るのは初めてなので、びっくりしながら店内をきょろきょろしています。チェさんは「韓国にはないので、お店の中を見て何か不思議な感じがしたんですよ。冬なのに夏みたいな感じで……。だって、韓国じゃあ夏はオンドルの上に薄い畳(ござ)を敷きますけど、こんな畳はないですから」と日本の畳がすっかり気に入ってしまいました。

畳屋さんで取材するアンナさん

そのあと6人の探検隊は、「おいしい手焼きせんべいのお店(金時煎餅)」「温かい雰囲気の喫茶店(珈琲亭・郷)」「懐かしい駄菓子屋さん(ぎふ屋)」と次々に取材して回りました。昔ながらのお店のたたずまい、お店の方とのおしゃべり、そしてお店に並んだ品々に留学生たちは「これまで知らなかった日本」を見つけ、大満足。「いつまでも忘れられない経験です」と異口同音に語ってくれました。

手焼きせんべい店のジェクリンさんとジョックさん

私は近いうちに今回留学生たちが取材に伺ったお店の方々を、今度はイーストウエスト日本語学校にお呼びして、「ユニークな交流会」を実施する予定です。地域社会の中で、留学生と地元で暮らす日本人とが日常生活の中で、自然な形で触れ合うことがもっともっと増えてくることで、より良い共生社会が可能になるのではないでしょうか。
(「おこのみっくすマガジンVol.3」http://f-staffroom.co.jp/magazine.html

最後に、取材した留学生の感想をいくつか紹介したいと思います。

■アンナ(ロシア出身・女性)
先生のおかげで琴を一回ひきました。琴の音はとてもきれいだと思いました。伝統的な日本の音だと感じました。先生の琴の説明は面白かったです。古い琴の写真を見ながら聞きましたが、とても興味がありました。琴を弾くことはとても難しいけど、先生はとても上手でした。それに、ヨーロッパの歌の「ジングルベル」も琴でひいてくれたので、とてもびっくりしました。
畳の先生(畳屋さん)は、畳を作ることが大好きですから、きれいな畳を作ることができるのだと思いました。新しい畳には、特別なにおいがありますけど、私にはだいじょうぶでした。畳の先生は、いろいろな色の畳と、いろいろな品質の畳を見せたので、私たちはそれに触ってみました。そして堅い畳とやわらかい畳とどちらが高いか」聞きました。わたしたちはやわらかい畳のほうが気持ちがいいから高いと思いましたが、答えは反対でした。先生からは、畳を作るモノ(イ草)で作ったコップの下に敷くもの(コースター)をもらいました。今、私は毎日それを使っているので、いつも畳の先生を思い出します。

■呉佩頴(台湾出身、女性)
駄菓子屋さんは台湾と似ています。小学校の時によく行っていたので、お店の商品を見て、台湾の小学校時代を思い出しました。でも、「ベーゴマ」というおもちゃはないので、最初は「昔のお金」だと勘違いしてしまいました。駄菓子屋さんがタバコも一緒に売っていることは台湾ではないので、びっくりしました。「やっぱり日本人はタバコが好きな国民性かな」と思いました。
台湾にもせんべい屋さんがありますが、お土産としておせんべいを人に贈ることはありません。だから、きちんとプレゼント用にできているおせんべいを見て、びっくりしました。台湾は機械でおせんべいを作っていますが、「一枚一枚心をこめて作っている」と聞いて驚きました。取材班の6人は全員出身が違ったので、それぞれの国のお菓子やおもちゃがどう違うか話し合ったり、どの国も子供は同じようなおもちゃで遊ぶということがわかったりして、本当に楽しい時間でした。

■李文清(シンガポール出身、男性)
琴のお店が面白かったです。琴は糸(弦)を押すと、いろいろな音が出てくるのが本当に不思議でした。私は音楽が大好きだから、とても楽しかった。「さくらさくら」をひいてみましたが、できました。楽しかったです。
豆腐屋さんで食べた卯の花は、見たときはシンガポールと一緒でしたが、味がぜんぜん違いました。日本のは味が薄くて、あまり味がない感じでした。でも、おいしかったです。他にもにているものがたくさんあったんですけど、味が皆違ったし、健康食品って感じでした。
喫茶店では、お店の人と話しましたが、おばあさんの話す言葉は速くてよくわかりませんでした。途中で止めたら悪いと思ったので、ずっと聞いていましたが、あまりよくわかりませんでした。もっと日本語を勉強して、いろいろな日本語がわかるようになりたいです。でも、お店の家庭的な雰囲気が良いと思いました。
畳屋さんでは、畳は汚くなっても捨てないで、はがして畳屋さんに直してもらうのがすごいと思いました。古くてはがしたものも捨てないで、草だから、自然に、土に入れて、使うところがいい、エコライフだと思いました。

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